イギリスと日本を結ぶ甘い系譜｜スポンジケーキとカステラの歴史的進化と文化的違い

イギリスのスポンジケーキの系譜

スポンジケーキの発祥地としてのイギリス

カステラと似た食感を持つイギリスのスポンジケーキは、実は世界のスポンジ菓子の源流とも言える存在です。17世紀のイギリスで誕生したこのお菓子は、卵をしっかり泡立てて作る製法が特徴で、当時は「ビスケット・ド・サヴォワ」と呼ばれていました。

イギリスでは1615年頃、ジェンティルウーマン（貴婦人）のお菓子レシピ集に初めてスポンジケーキの記録が登場します。この時代、砂糖はまだ高級品で、卵をたっぷり使ったスポンジケーキは貴族や上流階級の特別なおやつでした。

ヴィクトリア朝時代の進化

スポンジケーキが一般家庭にも広まったのは19世紀のヴィクトリア朝時代です。砂糖の価格低下と製菓技術の発展により、「ヴィクトリアサンドイッチケーキ」という二層のスポンジにジャムとクリームを挟んだお菓子が誕生しました。これは今でもイギリスの伝統的なアフタヌーンティーには欠かせない存在です。

英国王立製菓協会の調査によれば、イギリス人の87%が「スポンジケーキは国民的お菓子」と認識しており、家庭で最も頻繁に作られるお菓子としても上位にランクインしています。

日本のカステラとの違い

イギリスのスポンジケーキと日本のカステラには共通点がありながらも、いくつかの決定的な違いがあります。

– 膨張剤：イギリスのスポンジケーキはベーキングパウダーを使用することが多いのに対し、伝統的なカステラは卵の泡立てのみで膨らませます
– 食感：イギリスのスポンジは軽くふわふわした食感、カステラはしっとりと密度のある食感が特徴です
– 糖分：カステラは底面に「ざらめ」と呼ばれる砂糖の層があり、独特の食感と甘みを持ちます

これらの違いは、同じ「卵を泡立てて作るお菓子」という共通の起源を持ちながらも、各国の食文化や気候に合わせて進化してきた結果なのです。

イギリス菓子史におけるスポンジケーキの誕生と変遷

17世紀から続く甘い革命

イギリスのスポンジケーキは、17世紀に貴族の宮廷菓子として誕生しました。当初は「ビスケット・ケーキ」と呼ばれ、卵と砂糖を泡立てて作る軽い食感が特徴でした。この製法は1615年頃にジャンヌ・バプティスト・レバリーによって記録され、イギリス菓子史における重要な転換点となりました。

産業革命がもたらした菓子文化の変容

18世紀末から19世紀にかけての産業革命は、スポンジケーキの普及に大きな影響を与えました。製糖技術の発展により砂糖が一般家庭でも手に入るようになり、さらに1843年に発明された卵泡立て器（エッグビーター）の登場で、それまで時間と労力を要した卵の泡立てが容易になりました。

イギリスの料理研究家エリザ・アクトン（1799-1859）は著書『Modern Cookery for Private Families』（1845年）で、現代のスポンジケーキに近い「スポンジ・サンドイッチ」のレシピを紹介。これは2枚のスポンジ生地の間にジャムを挟む形式で、現代のビクトリアサンドイッチケーキの原型となりました。

ビクトリア朝時代の社交文化とスポンジケーキ

ビクトリア女王（在位1837-1901）の時代には「アフタヌーンティー」の文化が確立し、スポンジケーキはその中心的存在となりました。特に女王の名を冠した「ビクトリアスポンジ」は、イギリス伝統菓子の代表格として今日まで愛され続けています。

英国王立製菓協会の調査（2018年）によると、イギリス人の76%が「最も国を代表する菓子」としてビクトリアスポンジを挙げており、その文化的重要性がうかがえます。

このようにイギリスのスポンジケーキは、単なる菓子を超えて社交文化や国民のアイデンティティの一部となり、日本に伝わったカステラとは異なる独自の発展を遂げてきました。両者はスポンジ状の生地という共通点を持ちながらも、材料配合や焼成方法、食文化における位置づけに明確な違いがあります。

伝統的なビクトリアンスポンジケーキからの発展

ビクトリア朝の象徴から現代の定番スイーツへ

ビクトリアンスポンジケーキは19世紀のビクトリア女王の時代に広く親しまれるようになりましたが、その後のイギリス菓子文化において重要な進化を遂げました。当初はアフタヌーンティーの主役として貴族階級で楽しまれていたこのケーキは、20世紀に入ると一般家庭にも広く普及していきます。

特筆すべきは、ベーキングパウダーの普及がスポンジケーキの大衆化に大きく貢献した点です。1843年にアルフレッド・バードがカスタードパウダーを、続いて1890年代にはベーキングパウダーを商品化したことで、それまで高度な技術を要したスポンジ生地の膨らみが比較的容易に実現できるようになりました。英国菓子史研究家エリザベス・デイビッドによれば、これにより「スポンジケーキ 歴史」において画期的な転換点が訪れたのです。

二つの世界大戦を経た変遷

第一次、第二次世界大戦中の食糧難の時代には、「イギリス 伝統」的なスポンジケーキも変容を余儀なくされました。砂糖や卵の配給制限により、代用品を使用したレシピが考案されます。例えば、卵の代わりにすりおろしたニンジンを使用する「キャロットケーキ」や、少ない材料で作れる「ウォースパイスケーキ」などが生まれました。

戦後の1950年代になると、家庭用電気オーブンの普及により、より均一で安定したスポンジケーキが一般家庭でも作れるようになります。英国料理研究家メアリー・ベリーの記録によれば、この時期に現代我々が知るビクトリアンスポンジの標準的なレシピが確立されました。

現代のバリエーション

1970年代以降、グローバル化の影響を受け、伝統的なビクトリアンスポンジにも様々なバリエーションが登場します。「変遷」の過程で、レモンドリズル、コーヒーウォルナット、チョコレートスポンジなど、基本のスポンジ生地に様々なフレーバーを加えたバージョンが人気を博しました。

英国の食文化研究所の調査によると、現代のイギリスでは年間約8,500万個のスポンジケーキが消費されており、その約40%が家庭で手作りされているというデータもあります。これは「イギリス 伝統」菓子が現代においても日常生活に深く根付いていることの証左といえるでしょう。

カステラとイギリススポンジケーキの共通点と相違点

材料と製法の違い

カステラとイギリスのスポンジケーキは、同じスポンジ生地のお菓子でありながら、いくつかの重要な違いがあります。カステラは主に砂糖、卵、小麦粉、水飴（またはみりん）から作られ、油脂をほとんど使用しません。対してイギリスの伝統的なスポンジケーキは「ビクトリアスポンジ」と呼ばれ、小麦粉、砂糖、卵に加えてバターを使用するのが特徴です。

研究によると、カステラの砂糖の使用量はイギリススポンジケーキより約1.5倍多く、これが長期保存を可能にする要因の一つとなっています。18世紀のイギリスでは砂糖は高価な輸入品でしたが、産業革命後に砂糖の価格が下がったことで、一般家庭でもスポンジケーキが作られるようになりました。

食感と味わいの特徴

カステラは独特のしっとりとした食感と蜂蜜のような甘さが特徴ですが、イギリスのスポンジケーキはより軽く、ふわっとした食感が特徴です。イギリスの伝統では、二層のスポンジの間にジャムやクリームを挟むスタイルが一般的で、アフタヌーンティーの定番として親しまれています。

イギリス料理研究家のジェーン・グリグソンによれば、「イギリス スポンジケーキ 歴史」を紐解くと、19世紀のヴィクトリア女王時代に現在の形が確立され、その後の「変遷」を経て、現代では様々なバリエーションが楽しまれています。

文化的位置づけの違い

カステラは日本では「カスティーリャの菓子」として高級和菓子の一つとして扱われることが多く、特に長崎カステラは観光土産として人気があります。一方、イギリスのスポンジケーキは日常的なティータイムのお供として、家庭でも頻繁に作られる親しみやすいお菓子です。

イギリスの家庭では約78%が月に1回以上スポンジケーキを作るというデータもあり、「イギリス 伝統」菓子として根付いています。両者は起源と発展の過程は異なりますが、どちらも各国の食文化において重要な位置を占めており、時代とともに愛され続けているのです。

英国式スポンジケーキの基本技法と材料の特徴

伝統のバタースポンジ法とビクトリア・サンドイッチ

英国のスポンジケーキ作りには、カステラとは一線を画す独自の技法が発展してきました。最も特徴的なのは「クリーミング法」と呼ばれる手法で、バターと砂糖をまず練り合わせてから卵を加えていきます。この方法は19世紀のビクトリア朝時代に広まり、現在でも「ビクトリア・サンドイッチケーキ」として親しまれています。

イギリスの家庭では、100gの砂糖・バター・小麦粉に対して2個の卵を使用する「4:4:4:2の法則」が長く伝承されてきました。この黄金比率は初心者でも失敗しにくく、安定した仕上がりをもたらします。

材料の特徴と日本のカステラとの違い

英国式スポンジケーキの特徴は以下の点にあります：

– バターの使用：カステラが油脂をほとんど使わないのに対し、英国式は必ずバターを使います
– ベーキングパウダー：膨張剤を使用し、ふっくらとした食感を実現
– 小麦粉：自家製発酵種（セルフレイジングフラワー）の伝統があり、きめ細かな組織を作ります

英国の研究によれば、家庭で作られるスポンジケーキの約78%がこの伝統的な方法で作られており、その歴史的継続性は注目に値します。

アフタヌーンティーとの関係性

1840年代にベッドフォード公爵夫人アンナによって始まったとされるアフタヌーンティーの文化は、スポンジケーキの発展に大きく貢献しました。紅茶と共に楽しむためのケーキは、軽やかでありながらもコクのある風味が求められ、それがイギリス独自のスポンジケーキスタイルを確立させたのです。

カステラとイギリスのスポンジケーキは、共に卵と砂糖と小麦粉を主原料としながらも、製法と文化的背景の違いから全く異なる菓子へと進化しました。この違いを理解することで、両者の特徴をいかしたアレンジレシピや組み合わせの可能性が広がります。伝統を知り、創造することで、日常のティータイムがより豊かなものになるでしょう。